郡司和斗『遠い感』書評 遠い世界、遠い感情 貝澤駿一

感情がなんだか遠いな、と、郡司和斗の歌を読んでいると時々思う。感情を吐露することは歌を作る動機のもっとも大きなひとつになりうるものだが、郡司はあまりそれに執着しない。若く、瑞々しい感性を持っている(と言われがちな年代だ)のに、少し珍しいな…

郡司和斗『遠い感』書評「一人だけ」を見つける能力  川島結佳子

一人だけの民族みたいはなびらをひたいにつけて踊るあなたは 挙げた歌は本歌集『遠い感』の巻頭歌である。私は花見の席で踊っていた「あなた」の額に、降ってきた桜の花弁が貼りついたのを想像する。そう考えると楽しそうな場面であるが、「ひとりだけの民族…

郡司和斗『遠い感』取扱店舗一覧10/10時点

郡司和斗『遠い感』(短歌研究社)取扱店舗一覧10/10時点 棚にない場合は他の人が買った可能性が高いです。 在庫が倉庫にあるかもしれないので、店員さんに声をかけるのがいいかもです。 また、店舗での注文も他店よりスムーズかと思われます。 【北海道】 …

第一歌集について

第一歌集が完成しました。 郡司和斗『遠い感』 定価:2200円(本体2000円+税)出版社:短歌研究社栞文:穂村弘・川野里子・瀬口真司 装丁:加藤愛子 題字:木内陽 装画:KOURYOU ▼短歌研究社 遠い感 郡司和斗歌集 - 短歌研究社 ▼アマゾンhttps://www.amazon.co…

詩「調子」

詩「調子」郡司和斗 チコリータは、これを侵してはならない。寿限無寿限無のカラミティ。ドラック・アンド・ドロップでカニカマ送れはすべて詐欺。アップロードのプラカード。たくさんの人に支えられ、今がある。私たちは、タナカです。主体的・対話的で深い…

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川柳50句 ENGINE

文学フリマ東京で配布した川柳のテキストデータになります。 実物の紙に載せていた散文は当日手に取ってくれた人へのサービスということで、この記事には掲載しません。(というか意地悪なこと書いてて載せるのこわぽよです) ENGINE 郡司和斗 判決の週はふう…

文学フリマ東京(2022.5)で買った本の感想

夜更けまでと夜更けからの現在地すれちがうもちきりやわんさか /カリフォルニア檸檬『み未して視みうつつひみづ』 抽象的な次元の移動感覚をみせてくれた。 しりとりと逃水いくばくかの現金 /大塚凱『ねじまわし第3号』 逃水、で想起される季節感に「しりと…

川柳五十一句「療養」

療養 郡司和斗 おすすめの憲法はCCレモン 傾きがマジックミラー号なのに キムチだけでも覚えて帰って 賢者ならホットパンツの色選び 見上げれば別の宇宙の文化の日 カメラワークが湯豆腐だった 探偵も歌っているよ海の絵に 太宰さんだけ会計で笑ってる 水…

俳句三十句連作「塔」

塔 郡司和斗 木の駅の影青々とこどもの日 更衣鏡の中を鳥一羽 朝蝉や半紙の表てらりとす 枇杷の実や仕切りの多き進路室 炎昼をざんと光りし滑り台 あやとりの塔ゆふぐれはゆふやけへ 彫像の小さきペニスを天道虫 黒鍵の隙間へ落つる玉の汗 油絵の具のざらつ…

文芸同人誌「焚火」発売

【内容】 ①過去の読書会 大木あまり『遊星』 イシグロキョウヘイ 映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』 平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』 鴇田智哉『エレメンツ』 笹井宏之賞「ねむらない樹vol.6」 津川絵理子『夜の水平線』 ②誌上読書会 石松佳『針…

川柳っぽさとは?

「かりん」2021.11月号 今月のスポット 髙良真実さんに送ってもらって『川柳スパイラル・第12号』を読んだ。『川柳スパイラル』は小池正博さんが発行している川柳雑誌で、同人誌と結社誌の間のような誌面構成になっている。12号以前の目次はまったく知ら…

諦めからはじめる

「かりん」2021.8 今月のスポット 平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』を読んだ。僕の印象だが、既に三、四冊歌集が出ているくらいの認知度が平岡さんにはあると思う。どこの批評会に参加しても毎回パネラーとして居るし、結社、学生短歌会、ツイッターのど…

アニメ・漫画は短歌にどのように詠まれてきたか

「かりん」2021.5月号 「今月のスポット」 三月八日に『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開された。本作はさまざまな事情により二度の公開延期が行われており、最初に予定されていた二〇二〇年六月二十七日からは約九ヵ月も遅れることになった。僕も十日…

中止になった大学短歌バトル

「かりん」2021.2月号 今月のスポット 角川「短歌」十二月号に特別企画として「大学短歌バトル2020 詠草発表」が掲載されている。この詠草集には今年の3月に開催される予定だった大学短歌バトルのトーナメント(予選ではない)の短歌が全首載っており、短…

テン年代の短歌

「かりん」2020.11月号 今月のスポット 九月五日に現代俳句協会青年部主催による勉強会「テン年代が俳句に与えたもの」がYouTube liveにて開催された。俳句に関する発表が中心に行われた勉強会であったが、ゲスト的なポジションとして短歌サイドからも瀬口真…

リアリズムってなんだ

「かりん」2020.8月号 今月のスポット 「短歌研究」2020年6月号において、「永井祐」と「短歌2010」、という特集が組まれた。おそらく、短歌研究社から永井祐の第一歌集『日本の中でたのしく暮らす』が再刊されたことをきっかけとしての特集だろう…

第二回笹井宏之賞発表

「かりん」2020.5月号 今月のスポット 第二回笹井宏之賞が短歌ムック「ねむらない樹vol.4」で発表された。今回の選考委員は、大森静佳、染野太朗、永井祐、野口あや子、長嶋有の五名。昨年の文月悠光と入れ替わり長嶋有が参加した形になる。受賞作には、鈴木…

同年代同人誌の意義~文フリおつかれさまでした~

「かりん」2020.2月号 今月のスポット 十一月二十四日に第二十九回文学フリマ東京が開催された。「かりん」からも数名参加しており、思いつく限りだと大井学さん(Tri)、上條素山さん(外大短歌)、僕(外大短歌)などが挙げられる。文学フリマでは主に同人誌が販…

散歩【長野市編】

長野市を散歩しました。 もともと美術館にいく予定だったのですが、まさかの定休日で時間ができてしまったので、一人でぷらぷらと歩きました。 コロナで気軽に人と会えないとなると、散歩が本当に良い気晴らしになります。 散歩の途中で見つけたものをいくつ…

エア大学短歌バトル2020

郡司和斗です。角川短歌に載ってる大学短歌バトル2020の詠草を読んで、題ごとに好きな歌を引いていきたいと思います。 【家賃】 この店の家賃はいくつぶんだろう束ねてもらった花を受けとる/岩瀬花恵 家賃が6万とかだとして、6万ぶんの花はたくさんあってう…

短歌連作を書くときの流れ ざっくり編

①連作のテーマを決める →やっぱり意識的にしろ無意識的にしろここからはじめないと、みたいな気持ちはある ②連作のテーマが決まらない →そしてテーマが決まらないまでがお約束。バカらしい話に聞こえるかもしれないけど、そもそも短歌を書く必然性って薄くね…

第63回短歌研究新人賞感想

気になったやつを 「Victim」平出奔 手はいつも汚れていると教わって視界の端へやってくる鳥 故郷で起こった緊急事態には関連しないこの町の天気 信号がついさっき青じゃなかったらきっと渡っていた歩道橋 この町に生まれていたら通ってた小学校から飛び出す…

工藤吉生『世界で一番すばらしい俺』感想

ぬらっ。 『世界で一番すばらしい俺』は工藤吉生の第一歌集。カバーとかついていない簡素な装丁で、同人誌みたいでかわいい感じがする。 帯には「膝蹴りを暗い野原で受けている世界で一番すばらしい俺」という一首と「おかしないい方になるが、高度な無力感…

第62回短歌研究新人賞授賞式 スピーチ原稿

去年の新人賞に応募してからそろそろ一年が経ちそうなので、受賞のスピーチ原稿を載せます。今後、誰かがスピーチを考える際の参考になればうれしいです。僕自身もめちゃめちゃ他の人のスピーチ原稿を読んで参考にしたので。 ※この原稿は授賞式の「スピーチ…

阿部圭吾の短歌

花びら、と君の向こうを指差せば君が払うまぼろしの花びら/阿部圭吾「春の公園」『早稲田短歌49号』 最近、阿部くんの作品をどんどん好きになっている。この歌はわせたんの歌会で読んだのが最初だろうか。一読して、まずは構造に目がいく。かなり短歌そのも…

鈴木ちはねの短歌

大雨のニュースを見てる 意味もなく必要以上に部屋を暗くして/鈴木ちはね「スイミング・スクール」 最初から鈴木さんの歌の話とは離れていくんだけど、こういう感じの文体の歌って、豚骨ラーメンと佐野ラーメンを同時に食べている気分になれる、すごい。意味…

『春原さんのリコーダー』東直子

ばくぜんとおまえが好きだ僕がまだ針葉樹林だったころから/東直子 人を嫌いになるのには理由があっても、好きになるのには理由はいらない、とかなんとかどこかで読んだ気がするけど、実際にはどうでもいい理由を後付けしたりすることが多いと思う。だから、…

自己紹介

【略歴】 郡司 和斗(ぐんじ かずと) 1998年6月生。茨城県出身。俳誌「蒼海」、歌誌「かりん」所属。「焚火」同人。大学在学中に連作「ルーズリーフを空へと放つ」で第62回短歌研究新人賞受賞。他、第39回かりん賞、2022年度口語詩句賞新人賞受賞。公益財団法…

『光のアラベスク』 松村由利子 を読む

『光のアラベスク』は、「令和三十六歌仙」というシリーズの一つ。なんなのかはよくわかっていません。365首を収めた第5歌集です。装丁の薄い紙がきらきらしていて好きです。 松村さんは「歌林の会」所属。歌をまとめて読むのはじめてでした。沖縄や戦争、新…