『光のアラベスク』 松村由利子 を読む


『光のアラベスク』は、「令和三十六歌仙」というシリーズの一つ。なんなのかはよくわかっていません。365首を収めた第5歌集です。装丁の薄い紙がきらきらしていて好きです。


松村さんは「歌林の会」所属。歌をまとめて読むのはじめてでした。沖縄や戦争、新聞記者、#metoo、文学、音楽、自然など、いろいろな連作のテーマが出てくるのですが、それら全てが根本的には同じ問題意識で繋がってる感じがして、歌集を槍のように鋭くしていると思います。


あと、かなり歌の幅がひろいなと思いました。人生日記のような歌から幻想的な歌、現代詩風の歌まであり、それらがテーマに合わせて選択されていて、とても力量のある印象を受けました(どこから目線って話ですが)。好きな歌は以下の通りです。




甘やかに雨がわたしを濡らすとき森のどこかで鹿が目覚める

火星行き移民船たつ佳き朝にわが曾曾曾孫の歌う讃美歌

人がみな上手に死んでゆく秋は小豆ことこと炊きたくなりぬ

いつどこで始まるかもう分からない戦争の新しき顔のぺかぺか

世界中の人が使えば地球ひとつ終わる温水洗浄便座

秋のまなこ乱反射せり浮島のいくつか風にふるふると揺れ

飛ぶために骨まで軽く進化した鳥よ乳房を持たぬ種族よ

ミツバチを飼いませんかと誘われて地平あかるむ島の冬かな

鉛筆をナイフで削る集中と思い出せない女優の名前

草原に置かれた銀の匙ひとつ雨を待ちつつ全天映す




この本おわり