『手のひらの海』平山繁美

 

作者は1970年生まれ。香川県出身。2016年に短歌研究新人賞最終候補とある。現在は看護師として勤めているらしく、歌集にもそれに関連した歌が多い。


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落書きに見える数字を手にかきしあの人もまた看護師だろうか

看護師の慌ただしい日常が、落書きに見えるという言葉から読み取れる。

 

 

三面鏡のなかに何人いるのだろうひとつに纏めこの世に立てり

別世界の自分もいる、みたいな視線。自ら纏めているのがおもしろい。

 

 

ひとたびを目蓋は開かず母に似る長き睫毛がこの世に触れる

睫毛を見つける繊細さ。〈この世〉という大げさな把握も、この歌ではそこまで嫌みがない。

 

 

水音が聞こえるらしいはらってもはらっても吾に寄りくる蛍

一番好きな歌。馬場あき子の〈身に水流の音ひびくなり〉の歌を思い出した。はらってもはらってものあたりに、自然に対する屈折が見える。

 

 

プーさんの口を通して子は話す(ここはいえだよ、おかあさんだよ)

歌集を通して読むと、子どもが一度施設(孤児院?)に入り、その後主体によって迎えに来られているというストーリーが浮かぶ。腹話術に妙なあたたかみがある。

 

 

ぼくのふく ぼくのながぐつ ぼくのはし ぼくぼくぼくがいっぱいあるね

平山さんの歌集は、文脈の作りがかなり上手い。特に、子どもとの関係性を描く歌にそれが光っている。

 

 

黙祷の時間増えゆく地球(ほし)に生く手のひらの地図をひたりと合わせ

巻頭歌。自然を通して、生死に対する重層的なまなざしを向けている。作者の作歌姿勢が象徴された一首と思う。