ねむらない樹 vol.2 笹井宏之賞発表

ねむらない樹のvol.2が発売された。第一回の笹井宏之賞が発表されているので、気になった歌を読む。





バーミヤンの桃ぱっかんと割れる夜あなたを殴れば店員がくる /柴田葵「母の愛、僕のラブ」

大賞の作品。店員がくる、のかなしさ。あたりまえといえばそうだけど、介入されてしまうんだよな。






この世が春じゃなくても秋じゃなくてもお花見をしてお月見をする/谷川由里子「シー・ユー・レイター・また明日」

大森静佳賞の作品。たぶん、人を好きなるのと同じレベルで花や月のことが好きなんだろうな、と思った。






かすかに歌 大きくなってスナックを過ぎてからかすかになってゆく/浪江まき子「刻々」

染野太郎賞の作品。そしてまた別のスナックからかすかに歌が聞こえてくるのだろうね。






おばあさんがうぐいす色の乗り物でゆっくり進む夕べの歩道/阿波野巧也「凸凹」

永井祐賞の作品。たぶん電動車椅子かなにかに乗っていると思うんだけど、すこし世界の解像度を落として歌にしたときに、うぐいす色が出てきたことがとても良かった。個人的にはこの一連が一番読んでいて心地よかった。






墓を蹴るような気持ちで手を合わせ祈るそちらでたんと苦しめ/八重樫拓也「墓を蹴る」

野口あや子賞の作品。どうやら賞の応募のために今回初めて短歌を作ったらしい。連作が全体的に熱い。吐きたてのゲロがキラキラしてるぜ。







常夜灯ひとつにささえられているあそこからここまでの輪郭/井村拓哉「揺れないピアス」

文月悠光賞の作品。見えている分だけが世界、みたいな、空間の描写がいい。その空間が常夜灯によって〈ささえられている〉というのも膨らみがある。





ここから最終候補


本職のありがとうございましたをくらえ のそのそ帰る柴犬/鷹山菜摘「はつなつ障害」

言い回しが好き。柴犬の困った顔も想像できる。







虹ですと誰かが言ってパートごと順番に窓辺に寄って見た/土谷映里「とても長い静かな曲」

パートごとなのがリアルでかわいい。律儀に順番になのもぐっときた。掲載されている歌はどれもすき。







生春巻きくらい優しくなるこれは生涯かけての生春巻きだ/石井大成「カノンロック

唐突なようにみえて〈生春巻き〉と〈優しさ〉の言葉の距離がほどほど近くて納得させられた。生涯かけて、と強く言い切るのも一首を引き締めるのに成功していると思う。石井大成さんの歌はちょこちょこ読んでいるけど、こういうのが得意なのかな。









ちなみに僕も一応最終候補になった。

あなたといてあなたはしずか明け方の洗濯物は乾かずにある「遠い感」


ありがとうございました。