あしたの孵化 辻聡之 を読む
やっと秋になってきた感じですね。こんにちは。
かりんの先輩、辻さんから第一歌集『あしたの孵化』をいただいたので、読んでいきたいと思います。
初読の感想は、とても抑制が効いていてバランス感覚が良いなあ、という感じでした。ドラクエでスキルポイントを均等に割り振ったキャラみたいな。勉強不足で申し訳ないのですが、辻さんの歌は今までまとめて読んだことがなくて、勝手に完全口語だと思っていました。実際には文語口語混合でしたが。だからなんだって話ですが、それでは、気になった歌をみていきます。
海近き町に生まれし友と飲む ずっと怖かった灯台の話
これはたぶんこどものころの話で、大人になればなんてことはないけれども、なぜか怖かったって物がたくさんあると思います。僕も岡本太郎の太陽の塔がずっと怖かったです。でもなんだろう、怖かったものを回顧して再認識するときに世界の輪郭がほんの少しはっきりしてくる感覚。快感だと思います。別に快感が良いってことをいいたいわけじゃないですけどね。
春の日のシーラカンスの展示室だれの言葉も遠く聞こえる
はるかな生命の連綿を思うときって水槽の中に沈んでいくような感覚に陥りますよね。音も言葉も遠くに聞こえていて、自分は超越性にただただ圧倒されるだけというある種の心地よさってあると思います。静かな雰囲気がとても好きです。
花冷えにトリートメントのしみわたる髪の先まで生きなくてはね
これ花王の商品にそのままつけるのって良くないですか。母が花王に勤めているので今度感想を聞きたいと思います。
食べられる野草図鑑よ話さずに忘れた春の話題のひとつ
食べられる野草図鑑というアイテムがすでに切ないです。それを話そうと思っていたけど忘れてしまって、しかも忘れてしまったことをさほど重く受け止めていないというのがまた余裕のある感じ。そこに、陽だまりのなかで眠るみたいな心地よさがあります。
ナポレオンとかカラーバリエーションとはギャルとか父の話は別の人のブログにいろいろ書かれているので、ここで書く意味はないかなと思いました。ので、あんまり引かれてないような歌を引きましたが、ぜんぜん歌集評なんて書けませんね。この前も歌会でかりん賞(今年のかりん賞は丸地さんと谷川さん)の評を求められてテンパってパスしてしまいました。連作や歌集の読みを鍛えるのが次の課題ですね。まとめになりますが、本当に良い第一歌集だと思います。批評会の開催が楽しみです。